不思議な霧

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 もう20年くらい前の丁度今頃のことです。とても偶然とは思えない不思議なことがありました。7人くらいでワゴン車に乗って、諏訪から松本方面に行きました。いつもの道では面白くないから、たまには別の道を走ってみようと、わざわざ遠回りをしてヴィーナスラインを通りました。ヴィーナスラインは白樺湖、女神湖、車山、七島八島、霧ヶ峰、美ヶ原高原など風光明媚なところを通る道路です。
 とてもなだらかで爽やかな道でした。遠くにはアルプスの雄大な山々の景色が見えました。見晴らしの良い高原を走るのは、とても快適なドライブでした。
 そこでたまたまニッコウキスゲの群落に遭遇しました。地平線まで山はニッコウキスゲの黄色一色に染まっていました。見事と言うしかない景色でした。思いがけない花との出会いに一同感謝しました。
 ニッコウキスゲはたった1日で花が枯れしまいます。次から次へと咲いて満開は僅か10日ほどしかありません。この辺のニッコウキスゲは毎年7月20日頃に咲くのでした。知らずに来たのに、幸運でした。感動して、必ず再び来ることを花に誓いました。結局その後、10回ほどヴィーナスラインに来ることになります。
 ある年の夏、またヴィーナスラインに行きました。勿論目的はニッコウキスゲでした。しかし、この辺りには霧ヶ峰と言われる山がある如くに、その年は霧が濃く、目の前を走っている車のテールランプも見えませんでした。
「今年は残念ながら花は見れないね。」
 と皆諦めました。
 それでも、折角来たのだからとニッコウキスゲの一番群落がある車山まで行って車から降りました。降りた瞬間でした。どこからともなく突風が吹いたかと思うと、今まで視界を遮っていた霧を一瞬で吹き飛ばしてしまったのです。
 ついさっきまであった霧は何だったのだろう?地平線の向こうまで視界が開けると、いつものように目の前にニッコウキスゲの花がまるで私たちを待っていたかのように迎えてくれました。遥か彼方にある富士山さえ見えました。とても感動しました。劇的過ぎました。
 2、30分ニッコウキスゲの美しさに酔いしれました。今までで一番美しい光景に見えました。十分堪能したので、
「さあ、もう行こう。」
 と言って全員が車に乗り込みました。すると次の瞬間に、再び突風が吹きました。何と今度は霧が戻って来ました。目の前は何も見えなくなりました。不思議なこともあるものです。まるで私たちに、ニッコウキスゲ
「どう?私たち美しかったでしょう!」
 と言っているようでした。