沢の水で代々長生き

f:id:hiroukamix:20200104110515j:plain 実家の目の前に沢がある。ちょろちょろと、ほんの少ししか水が流れていない小さな沢だ。子供の頃は、この沢で沢蟹を取ったり、水遊びをしてよく遊んだ。
 沢の中の大きな石をひっくり返すと、必ず何匹か蟹がいた。二、三センチの小さな蟹だ。たまに五センチくらいの大きいのもいた。見つけると、蟹が横に歩くのが面白くてじっと見ていた。
 メスは左右のハサミが小さめで同じ大きさだが、オスは右のハサミが大きいのが多かった。蟹も右利きが主流のようだった。
 私は子供の時に左利きだった。親戚の伯母さんに直されて、右利きになった。ハサミやナイフなどの刃物だけは今でも左利きだ。刃物は怖くて、右に直せなかったようだ。蟹もたまに左利きのも見かけた。蟹はただ見つけるのが楽しみで、またすぐに沢に返して上げた。
 上水道ができるまでは、この沢の水をずっと飲んでいた。今でも家の外に沢から水が引かれていて、洗い物や植物の水やりに使っている。私は実家に帰ると、この懐かしい水を飲む。どこのどんな高級な水よりも一番美味しい水だ。
 水のお陰か、祖母は百三才まで長生きし、父母も今九十才前後で元気でいる。人間の体は六十パーセントくらいが水だという。水はとてもだいじだ。
 雨が降って濁った時や、給水口に落ち葉が溜まって水の出が悪くなると、沢の一番上流に家があったので、うちの誰かが給水口のある所まで見に行った。私も何度か行ったことがある。
 給水口は手作りの小さなダムのようになっていて、直径が十センチくらいの太いホースで水を引いていた。それが、沢の下にある十軒くらいの家に流れていた。
 春になると沢の土手に、ふきのとうがたくさん出た。私はもっぱら取るのが専門で食べることはなかった。あの苦味が子供の時は大の苦手だった。今は天麩羅にして食べると贅沢な一品になる。ふき味噌も美味しい。
 沢に沿って竹薮がある。この竹を使って、父はよく籠やざるを作っていた。芸術品のように立派にできていたので、近所の人たちが皆欲しがり、大勢の人に上げていた。
 竹藪には毎年たくさん筍が出た。とても美味しかった。しかし、最近は猪が全部食べてしまう。柵をしてあるが、乗り越えて来る。家の庭にある百合の球根も皆食い荒らしてしまい困っている。
 今年は猪年だが、あまり歓迎できる動物ではない。野菜もじゃがいも以外はほとんど全滅だ。このようなことは昔は一度も聞いたことがなかった。山の奥に餌がなくなったのだろうか。以前熊が近くの道路まで出て来たという話も聞いた。山の動物たちも住みづらい世の中のようだ。 
 沢を少し奥に行くと、栗の木があり、大きな実をたくさんつけた。毎年それを取るのが楽しみだった。しかし、たまに誰かが先に取ってしまい、ほとんどなくなっていることもあった。山の恵みで、誰の物とも決まっていなかったので、早い者勝ちだったのだろう。