少年探検隊の沢登りと最初の一滴

f:id:hiroukamix:20200104110432j:plain 子供の頃に、沢登りをしたことがある。家の前の沢の水が、いったいどこから流れて来るのか、その源流が知りたかったのだ。
 村の近所の子供たちと、探険隊気取りで、沢を登った。ただの沢だと軽く見ていたが、登り始めてすぐに、難関に出くわした。滝があったのだ。しかも一つや二つではない。次々と滝がある。落差は一メートルから二メートルくらいの小さなものだった。滝壺は小さく、枯れ葉で埋まっていたところが多かった。横幅が二メートルから三メートルくらいあった。
 皆名前もついていない滝だ。多分この村の先人たちの、わずかな人しか知らない滝ではないかと思う。地図にも載っていないこんなに美しい滝が、家の目の前の沢にたくさんあることを知って、子供ながらにも誇らしく思ったのを覚えている。
 滝を幾つも越えて、沢をどんどん遡って行った。ところどころ木の枝が両側から垂れ下がり、沢を覆っていた。枝をかき分けながら進んだ。すると、途中で沢が枝分かれしていた。どちらに行こうか迷ったが、より山の頂きに近いほうを選んだ。この沢のある山はサスビラという名前だったと思う。漢字は分からないが、不思議な名前だなと思っていた。
 段々と沢が急斜面になり、水もちょろちょろと少なくなった。何度か枝分かれしたところを通って、ようやく沢の源流に着いた。突き出た小さな岩の先から、めでたく地上に産声を上げた水滴が一滴づつポトッ、ポトッと落ちていた。
 毎日お世話になっている水の源を初めて発見して、子供ながらにも感慨深い思いに浸ったのを覚えている。
 最初の一滴が、段々と集まって、沢の流れができる。貴重な一滴だ。水一滴をバカにしたり、無駄にしてはいけないと思った。
 残念ながら今この沢は、村を流れる下流は護岸工事をしてセメントに覆われている。沢に降りることもできない。蟹もいるかどうか分からないが、子供たちの遊ぶところが段々と減っていく。そもそも子供の数も少なくなっている。私が通った小学校もとうの昔に閉鎖してしまった。
 ところで、この沢は浅利川に流れ込み、浅利川は桂川と合流する。桂川は県内では鮎釣りで有名だ。水源は富士五湖の一つ河口湖だ。更に桂川相模川と合流して、相模湾から太平洋に流れ込む。一滴の水が大海になる不思議を今更ながら感じる。