新しく買ったつもりの自慢の靴

今週のお題「2019年買ってよかったもの」
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 今年二足の革靴が履けなくなった。二足とも十年近く履いていた物だった。
 一足はとても丈夫に作られたウォーキングシューズだ。この靴を履いて、日本を一周以上の距離を歩いた。愛着のある靴だ。靴底が5センチ近いクッションでできていて、足腰に優しく、軽い足取りで歩くことができる。しかし、歩き過ぎて、靴底が真ん中からパカッと割れてしまった。踵の上も両方とも擦れて、ほころびていた。
 もう一足は、小指の当たりが裂けて穴が開いてしまった。私は足の幅が広いので、一番幅の広い靴を買っても、よく同じところに穴が開いてしまう。
 この二足の靴を捨てて、今年新しい靴を買うつもりでいた。二足を袋に入れて、玄関の脇に置いた。すると、何と靴が喋った。
「僕たちを捨てないでくれ。まだ履ける。」
 一瞬耳を疑ったが、袋の中から靴を出してみた。どう見ても、もう履ける感じではない。しかし良く見ると、ウォーキングシューズの靴底は二つに割れているが、上の部分は問題ない。もう一足は、上の部分は穴が開いているが、靴底はしっかりしている。この二足を合わせて、一足にできないかと思った。
 それぞれの靴の上の部分と靴底を外した。ウォーキングシューズの上の部分ともう一足の靴底を合わせて見た。ぴったりだった。問題は上の部分と靴底をどうやって付けるかだ。元々は接着剤で付いていたが、素人が付けてもすぐ剥がれてしまいそうだ。
 すると靴がまた喋った。
「しっかり糸で縫いなさい。」
 そうは言っても、靴を縫う糸も針もない。ましてや靴底を縫うと、歩く度に糸を踏んでしまい、糸が切れてしまう。また靴が喋った。
「靴底に溝を作りなさい。」
 考えてもみなかった。どうやって溝を掘ったら良いか思案した。子供の彫刻刀がどこかに仕舞ってあったので探した。すぐ見つかった。Vの字の彫刻刀で、靴底に一周溝を掘った。意外と簡単に掘れた。
 手芸材料の専門店に行って、靴を縫う糸を買ってきた。針も探したが、靴用のはなかった。針は細い針金を使って自分で作った。
 革靴の上の部分と靴底を合わせて、一センチ間隔に、千枚通しで穴を開けた。その穴に上と下から針金で作った針で糸を通して、縫っていった。甲の部分は中が見えないので、最初はとても苦労した。真っ直ぐの針ではなく、曲がる針金だったので上手く縫うことができた。
 一周縫い終わって靴を見ると、我ながら感動した。両方縫い終わったが、踵がほころびたままだ。そこには、捨てる革の一部を切り取って、両側から挟んで縫った。完璧だ。
 布にクリームを付けて磨いた。まるで新品のようだ。世界に一足しかない革靴の完成だ。丸一日掛かってしまった。
 今、別の靴と一日交代で履いている。もう半年以上経ったが、糸も切れず、足にはピッタリとしている。この靴を履いて歩くと、雲の上を歩いているようだ。
 今年買った訳ではないが、新しく買ったつもりで、更に十年大事に履いていきたい。(上の写真の靴)