一番嫌いな事が一番好きになる

f:id:hiroukamix:20191122055824p:plain今週のお題「〇〇の成長」

 私は小学校の時、一番嫌いな教科が音楽だった。イ短調とかハ長調とかシャープとかフラットとか何度聞いてもさっぱり理解できなかった。歌を歌うのも好きではなかった。そもそも音痴だった。「音楽」は「楽しい音」ではなく、「苦しい音」だった。
 そんな私が今、毎日のようにピアノを弾いている。弾くのが楽しい。一日でも弾かないと物足りない。奇跡としか言いようがない。だからと言って上手く弾ける訳ではない。簡単ではないが、努力した分は少しずつ成長する。自己満足の趣味に過ぎない。
 二人の子供が、小学生の頃ピアノを習っていた。それで、電子ピアノを買った。子供たちの意志というよりは、半ば親の押しつけだったので長続きしなかった。
 電子ピアノが寂しそうに、ポツンと居間に置かれていた。ピアノの上は物置きになっていた。
 ある日、「私を弾いて」と訴えるピアノの声が聞こえた。すぐに二週間でマスターできるという楽譜を買ってきた。「エリーゼのために」だった。
 楽譜の一つ目の音符を見てドレミを確認し、鍵盤からその音を探し、鍵盤を押す。楽譜の二つ目の音符を見てドレミを確認し、鍵盤からその音を探し、鍵盤を押す。この繰り返しだ。よちよち歩きの赤ちゃんのようなものだ。
 最初の数小節を三十分以上かかってたどたどしくだが何とか弾けるようになった。
 二日目は昨日の復習の後、その続きをまた数小節弾いた。毎日三十分くらいそれを積み重ね、二週間ではなく、一ヶ月以上かかったものの何とか一通り弾けるようになった。
 しかし、CDで聞いた曲の音と全然違う。同じ鍵盤を叩いているはずなのに、音色が違うのだ。何度やっても同じ音が出ない。難しいものだ。しかし、誰かに聞かせる訳ではないので、適当に弾けたらいいかなと思っている。
 次に挑戦したのは「トロイメライ」という曲だった。この曲はとても好きな曲の一つだ。とにかく短いのが気に入っている。
 韓流ドラマの先駆けとなった「冬のソナタ」の主題曲「最初から今まで」や、挿入曲の「マイ メモリー」にも挑戦した。今はこの二曲が一番得意だ。
 一曲、二曲と弾ける曲が増え、十曲くらい何とか弾けるようになった。とは言っても、つっかえつっかえだ。音符を覚えている訳ではないので、手が勝手に動いてくれるかどうかに全てがかかっている。一瞬手が止まると、続けて弾けなくなる。また、初めからやり直しだ。
 とても人に聞かせたものではないが、自分としては十分満足だ。今まで誰かが演奏したものしか聞けなかったクラシックなどの曲を、たとえ下手ではあったとしても、自分が直接鍵盤を叩くことにより弾けるのは最高の気分だ。それで味をしめてから、毎日電子ピアノの前に座らずには居られなくなった。