猫になりたい


 子どものときに猫を飼っていました。私はそのころ、猫になりたいと本気で思っていました。猫が羨ましかったのです。
 猫の名前はマリといいました。白と黒の斑模様の毛をしているメス猫でした。寝ていると、よく布団の中に入ってきました。冬は湯たんぽ代わりになりました。朝起きてみると、兄の布団の中で子猫を何匹か生んでいたことがありました。その後、その子猫たちがどこに行ったかは覚えていません。
 マリはいつも何もしないで、毬のようにじーっと丸くなって寝そべっていました。だからマリと名づけたかどうかは分かりません。
 マリは好きなときに起きて、好きなところに行って、好きなときに帰って来て、好きなときに寝ているように見えました。人と話す必要もないし、作文を書く必要もありません。何かを考えているようには思えませんでした。私はそんなマリがとても羨ましく思いました。だから猫になりたかったのです。
 私はこたつで背を丸くして座り、両手を頬のつっかえ棒にして、そんなマリを羨望の眼差しでじーっと見つめていました。マリと目と目が合うと、
「恥ずかしいので、そんなにじっと見つめないで欲しい。」
 とマリが言っているように感じました。
 何故自分は猫に生まれて来なかったのか、いつも悔やんでいました。
 猫と話ができないので分かりませんが、猫は猫で色々苦労しているのでしょうか?人間に生まれたかった猫もいるのでしょうか?猫からは人間が羨ましがれているのかもしれません。
 猫が喋ったら、
「猫を舐めるんじゃないよ。猫には猫の悩みや苦しみがあるんだ。この人間は、何て馬鹿なことを言っているんだ。代わって欲しけりゃ、いつでも代わってやるよ。」
 と言いそうです。 
 しかし、それも今となっては昔のことです。今は人間も捨てたものではない、と思っています。話すことも書くことも楽しいからです。過去の自分では考えられません。言葉で表現できることがどんなに幸せなことか、とつくずくと感じます。猫には失礼ですが、猫に生まれてこなくて良かったと思っています。


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