四千万年かけて創った息をのむ絶景(2/3 ザイオンキャニオンとブライスキャニオン)

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 グランドキャニオンの向こう岸に行くのは大変だ。千メートル以上の崖を降りて、激流を渡り、今度は千メートル以上の崖を登らなければならない。
 私の人生は、崖を下って谷底に行き、激流を泳いで渡ったあと、今は崖を上に向かって登っているところだ。目の前の光景が、私の人生と重なって見えた。
 向こう岸のことを「彼岸(ひがん)」という。仏教では悟りを開いた仏の世界が「彼岸」だ。凡夫が修行をして、煩悩から解脱して、仏になって「彼岸」に行く。それに対して、煩悩に苦しむ凡夫の世界は「此岸(しがん)」だ。こちら岸という意味だ。仏の世界を極楽浄土や西方浄土という。彼岸の中日は、太陽が真西に沈むので、西方浄土に成仏することを願って、彼岸が始まったという。グランドキャニオンは、凡夫と仏を隔てる深い谷なのかもしれないと思った。
 近くにあるザイオンキャニオンにも行った。情緒豊かな表情の巨大な岩山が、幾つもドッシリと構えていた。世の中の煩いや小さな問題などを、全て忘れさせてくれる深い懐の中にいるように感じた。
 グランドキャニオンは深い渓谷を見下げたが、ザイオンキャニオンは高い山を見上げた。夢は大きく、志は高く持て、と山が言っているように聞こえた。
 ブライスキャニオンにも行ったが、ここは幻想的で不思議な光景だった。茶色い針の山が無数に眼下一面に広がっているのだ。まるで大きなハリネズミの背中だ。柔らかい岩が雨や風によって削られて、固い岩だけが残ったようだ。
 道を下って、針山の根もとに行くと、おとぎ話の世界に迷い込んだ雰囲気だった。自分が小人のように見えた。
 たくさんの茶色い針の岩のあいだに、大きな木がポツンと真っ直ぐに立っていた。とても不思議だ。砂漠の中でオアシスに出会ったように感じた。