少年の前に一人の人物が現れます。その人は、一軒一軒トイレ掃除をしながら訪問する事で有名な、一灯園という京都にある修養団体の、三上和志さんという方でした。この病院に有り難い話をする為に来しました。
三上さんの話が終わったあと、院長先生が、重体で個室から一歩も出る事ができない少年にも聞かせてやりたいと思い、三上さんにお願いしました。一緒に少年のいる個室に行きました。しかし少年は
「うるせー!」
と言って拒絶します。三上さんはドアを閉めて出ようとしますが、振り返ると、少年の目に、孤独なのに素直に表現できない、ひねくれた感情が見えました。
そこで三上さんは少年に歩み寄って、一晩看病する事にしました。院長先生は、結核が移るから危険だ、と止めますが、三上さんは
「自分の子供だったら、そうするでしょう。」
と言って、止めるのも聞かず残りました。三上さんは体をさすりながら話をしました。少年は先ほどの生まれたいきさつや入院の経緯を語りました。
夕食が来て、少年は食べ残すと、残りを三上さんに食べるように勧めます。結核患者の食べ残しを結核患者が使ったスプーンで食べたら、本当に移ってしまいます。三上さんは一瞬ためらいましたが、少年が自分の親切が本物かどうか試しているのだと悟り、食べました。恨みの深い人は、わざと人を困らせたり、怒らせて試します。三上さんは、明日死んだとしても、今日一日は誠でありたいと思い、食べたのです。
続く