下坐に生きる③

f:id:hiroukamix:20210122054643j:plain 三上さんが食べたのを見届けて、少年は初めて心を開き、話を聞きます。どんなに良い話でも、人は心を開かなければ聞く耳を持ちません。三上さんは、人は誰かの役に立つように生まれてきた話をします。しかし少年はあと数日の命です。
「俺はもう明日にも死ぬ命なのに、人の役には立てない。」
と言います。しかし、三上さんは暴言を吐いたり、人を睨みつけるのではなく、「有り難う。」と言ったり、笑顔を見せるだけでも、人の役に立つという話をしました。少年は、それなら自分にもできる、という思いになりました。
 最後に少年は一つお願いがある、と言います。三上さんが聞くと、
「今度子供たちに話をする時に、親に小言を言われても反抗するなって言ってくれ。俺みたいに、言ってくれる人が誰もいないってのは寂しいもんだ。それに対して文句を言うのは贅沢だ。」
と言いました。それを約束して三上さんは少年と別れました。
 その翌日、「殺せ」と毎日わめいていた少年は笑顔で医師を迎えました。そして亡くなる時は合掌をしていたと言います。神も仏もないと言って、周りの人に悪態をついていた少年の最後とは思えなかったそうです。
 三上さんの温かい心が、冷たく閉じた少年の心を開きました。私たちの身近にも、孤独で寂しい人がいるに違いありません。そんな人の心を、少しでも溶かす事ができれば幸いです。