門の貼り紙(1/2)

f:id:hiroukamix:20200218153307p:plain 暗闇の中で、たった一つの言葉に出会って、希望の光が見えることがある。私は暗闇の中で、二つの言葉と出会った。
 新人研修で、訪問販売をしながら田舎を回っていた時のことだった。一生懸命に一軒一軒訪ねたが、朝から昼頃まで、実績が全くなかった。色々工夫をして、あの手この手で話をするが全然効果がない。片っ端から断りの滅多打ちに合った。
 段々惨めな気持ちになった。逃げ出してしまいたくなった。以前の自分だったら間違いなく逃げ出していただろう。
 しかし、いつも不思議な出会いによって導かれてきたので、諦めずに気持ちを切り替えた。「今日はどんな出会いがあるのだろうか?」とワクワクして歩むことにした。
 そう思って入った次の一軒目だった。門がある大きな農家の玄関先で、
「ご免下さい。」
 と何度か大声で叫んだ。誰も応答がない。留守のようなので隣の家に行こうとした次の瞬間だった。門の両脇に何か手書きの言葉が貼ってあるのに気がついた。その言葉に引き寄せられるようにして見ると、
「幸せだから感謝するのではなく、感謝するから幸せなのだ。」
「美しい物を美しいと思える、あなたの心が美しい。」 
 この二つの言葉が筆で書かれていた。これは天の声だと思った。この言葉が、今日の出会いを導いてくれるに違いないと直感した。
 それまでの自分は、売れたら幸せ、と思っていた。良いことがあったら感謝するが、そうでなければ感謝しない。とても打算的な考えだった。
 しかし、この言葉の意図するのはそうではない。まず初めに感謝の心が大切だ、と言うのだ。何に対して感謝するのか、すぐには分からなかったが、今までの自分の考え方が間違っている、と思った。感謝の気持ちがないのに、幸せや良い結果だけを求めても、それは得られないのだと思った。
 そして、もう一つの言葉は、美しい物があるから美しいと感ずるのではなく、心が美しいから、美しく見える、という。この言葉も私の心の中にスーっと入って来た。
 今まで、売ろう、売ろう、と躍起になって構えていた。これでは相手も嫌がって逃げてしまう。感謝の心など微塵もなかった。
 美しい心ではなく、不平不満や打算的な心、売れなくて焦る醜い気持ちが強かった。