新人研修の思い出⑥一番不幸な人
その後、数年立ってからこの地方に縁あって、仕事で行った。その地方で唯一私が知っている人がNさんだったので、気になって訪問した。
久し振りで少し道に迷ったが、家を探すことができた。インターフォンを押して、玄関の外で待っていると、Nさんが出て来た。相変わらず頭がボサボサでしわくちゃの寝巻着姿だった。私は顔を見てすぐ分かったが、Nさんは私が誰か分からない様子だった。前回訪問してカバンの中身を全部買ってもらった話をしたら思い出してくれた。
そして、また例の話の続きが始まった。前と同じように、二時間くらい一方的に一気に話しまくった。家族に対する愚痴や病気に関する経過報告だった。
今でも家族から疎んじられていて、家に居場所がないこと、その後も何度か入院したが、病名がまだ分からず、治療が進んでいないことなどをとうとうと話した。
そして前回と同じように、自分の話したいことを終えると、
「ところで、今日は何をしに来た?」
と聞いた。
「仕事でこちらに来たので、Nさんの顔を見に来ました。」
と言うと、嬉しそうな表情をした。そして、更にしばらく愚痴を聞いて別れた。その後この地方に行く機会がなかったので、Nさんとはそれっきりだ。捨てる神ではなく、拾う神によって、健康も家族との関係も改善されていることを祈るばかりだ。
転職nendo×はてなブログ 特別お題キャンペーン #しごとの思い出