④父と登った山

今週のお題「お父さん」
f:id:hiroukamix:20200624045754j:plain 私は山が大好きで、近くの山はほとんど全て登りました。高校の時に登山部の友だちがいました。大菩薩峠に登ると聞いて、自分も一緒に登りたい衝動にかられました。しかし、親に話したら反対されました。冬だったからです。それでも、意志を曲げなかったので、しぶしぶ承諾してくれました。
 父は若い頃山登りが好きで、富士山はもちろんアルプスなどほとんどの名山に登ったと聞いていました。だから冬山の怖さを誰よりも知っていたのだと思います。
 幸か不幸か、大菩薩峠に行く前日に大雪が降り、結局登山は中止になってしまいました。親の祈りが聞かれたのかもしれません。
 その後、気落ちしていた私を見て、父が「正月に雁腹(がんばら)に登るか?」と誘ってくれました。「雁腹」とは「雁ヶ腹摺山(がんがはらすりやま)」のことです。私の心残りを解く為の父の気づかいだったと思います。地元では通称雁腹と呼んでいるこの山は、昔の五百円札の裏に描いてあった富士山を撮影した山です。
 父と兄と私の三人で、正月を迎えて雁ヶ腹摺山に登りました。麓から順調に登って行きましたが、頂上を目の前にして、熊笹で覆われているところから雪が深くなりました。それ以上登るのは危険だったので、引き返すことになりました。しかし、私の中に心残りはありませんでした。父の気持ちだけで十分でした。
 所沢にいる時に、荒幡富士という人工の富士山がありました。標高119メートルの山です。その頂上に登って驚きました。展望図に「雁ヶ腹摺山」と書いてあったからです。故郷から遠く離れた所で、まさかこの山の名前に出会うとは思ってもみませんでした。残念ながら山は見えませんでしたが、とても嬉しかったのを覚えています。