もう四十年も前だが、長野市内に住んでいた。今回の台風で被災された方々にはお見舞い申し上げます。
長野は車の運転免許を取った所でもある。千曲川だったか、犀川だったかはっきり覚えていないが、河川敷に車の運転の練習に打ってつけの場所があり、毎日お世話になった地なので、心痛く思っている。
長野にはわずか半年しか住んでいなかったが、とても印象に強く残っている。特に善光寺や山々の自然、そして人情味溢れた人々のことが忘れられない。仕事で家を訪問すると、必ず野沢菜とおやきが出てきた。おやきは小麦粉や米粉で野菜を包んで焼いた饅頭だ。焦げた芳ばしい香りとカリカリの食感、中のホカホカの具が絶妙だった。おやきは家によって中の具が違った。野沢菜を入れた家もあれば、カボチャ、ナス、大根、ニラ、小豆、要するに何でもありだ。私が一番好きだったのはカボチャのおやきだった。すっかりおやきが気に入ってしまった。
野沢菜も食べ始めると、箸が止まらない。こんな美味しい漬け物があったのかと初めて知った。皿からなくなると、「食べろ、食べろ」と言って、何度もお代わりが出て来る。懐かしい味だ。
初めて会った人たちが、皆親戚のように迎えてくれた。かしこまらずにくつろげた。居心地の良い街だった。
りんごを栽培している家を訪問した時に、木から直接取ったりんごを頂いたことがある。たっぷりと蜜が入った真っ赤なりんごだった。それが何とも言えない美味しい味だった。あんなに美味しいりんごにその後出会ったことがないように思う。
青いままのりんごを収穫して、字や絵を切り抜いたシールを貼って水をかけながら太陽の日を当てていた。シールを剥がすと真っ赤なりんごに字や絵が浮き出て来た。そんな不思議なりんごも見せてもらった。引き出物や記念品として作っていると聞いた。
善光寺にもよく行った。本堂のどっしりとした大きな佇まいは、全てを暖かく受け止めてくれる母のような雰囲気を感じた。境内を散歩すると心が落ち着いた。
お寺の前の商店街も楽しい店で一杯だった。まさに門前町だった。一軒一軒覗いて歩くのが好きだった。気に入った店には何度も足を運んだ。和紙の折り紙を使った飾り物が好きで、行く度に色んな種類を買っていた。
運転免許を取ってからは、練習と称してあっちこっちに出掛けた。白馬、栂池、戸隠、鬼無里、菅平、景色の良い所ばかりだ。戸隠で食べた蕎麦の味も忘れられない。
温泉にもよく行った。わずか半年しかいなかったのに、数え切れない思い出がある。長野はまた住んでみたい良い街だ。
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