地獄の行軍(2/2)

f:id:hiroukamix:20200218153057p:plain しかし、行軍はこれで終わらなかった。その後も二十数キロから七十キロほどの行軍を二十回以上した。
 今では行軍は特に苦痛ではない。むしろ楽しい。一番の恵みは予期せぬ体験である。
 ある時、行軍中に夕日が沈むのを見た。思わず叫んだ。
「あっ、夕日が沈む。」
 すると、何と太陽が喋った。
「私は沈まない。」
 驚いた。空耳かな、と思ってじっと太陽のほうを見つめていると、太陽が続けて喋った。
「あなたから見ると、私は沈んでいるように見えるかもしれないが、西にいる人たちから見ると、私は今、朝日となって昇っている。私は永遠に沈むことはない。」
 その言葉は、はっきりと聞こえた。このようなできごとが二度や三度ではない。無心に歩いていると、とても心が敏感になる。瞑想のような状態に似ている。ふと何かを気づいたり、アイデアが浮かぶ。
 ある時は、一つの構想を練りながら歩いていた。歩く前は、中々まとまらなかった。その日は朝から雨が降っていた。夕方雨が上がって、太陽が出た。東に向かって歩いていたら、突然目の前に大きな二重の虹が現れた。その瞬間、全ての構想がまとまった。
 ある時は、あるプロジェクトを成功させる為に取り組んでいたが、暗礁に乗り上げていた。行軍しながら、打開策を探していた。その日は曇りだった。すると、歩いている途中で、雲の割れ目から太陽の光が、まるで天使の梯子のように、十本近く降りてきた。その日の夜だった。道が開かれて、プロジェクトは成功した。
 行軍はウォーキングと違って決して楽ではない。もうこれ以上歩けない、という肉体の限界が毎回やってくる。そういう時に、限界を越えた後で、いつも恵みがやってくる。