ピアノにまつわる不思議な縁

f:id:hiroukamix:20200102215510j:plain ピアノにまつわるとても不思議な出会いがあった。十年以上前のことである。
 ふとある新聞を見たら、「ピアノを差し上げます。」と書いてあった。すぐに電話をした。すると、老女が出て、
「あなたは十三人目です。検討してから連絡しますので、待っていて下さい。」
 と言われた。十三人目と聞いて全然期待はしなかった。
 翌日電話が来た。
「あなたに譲ることにしました。」
 一瞬自分の耳を疑った。
「えっ、本当ですか?十三人目なのに、私で良いんですか?」
 と、質問すると、
「あなたに決めました。あなたの家の電話番号下四桁が、私の誕生日なのです。だから何か縁を感じました。」
 と、言われた。まるで宝くじに当たったような気持ちで 、にわかには信じられなかった。
 早速、ピアノの運送業者に連絡を取り、相手方の家を訪問した。もう十年以上誰も弾いていない、赤ワイン色をしたアップライトのピアノだった。(上の写真のピアノ)娘さんが弾いていたものだという。もうそうとう長い間弾いていたと思われる年季の入ったピアノに見えた。でもとても気に入った。
 粗大ごみになって居間を占領していたようだ。もうすぐ引っ越すのだが、次の家は少し狭くなるし、どうせもう誰も弾かないので譲ることにしたそうだ。無料で良いと言われたが、感謝の気持ちを込めてお礼の品を渡して、ピアノを頂いた。
 運送業者に家に運んでもらった。家の一番端っこにある部屋の、なるべく近所迷惑にならない場所に置いた。
 不思議な縁で出会ったが、偶然はそれだけではなかった。
 十年以上誰も弾いていないピアノなので、調律が必要だった。すぐに調律師を探して、来てもらった。
 ピアノの中など見たことがなかったので、興味本位で調律師の仕事を傍らで覗いていた。アップライトピアノの上の蓋を開けて、前の部分も取り外した。
 ピアノの中は、金属や木、フェルトで作られた、たくさんの部品が複雑に詰まっていた。見事に調和が取れていて、これは一種の芸術作品だと思った。鍵盤を押すと、ハンマーが弦を打ち、音が出るその仕組みにとても感心した。
 調律師は音叉を取り出すと、それを鳴らして「ラ」の音を合わせていた。それを基準に全体を合わせていった。
 また、押しても戻らなくなった鍵盤を直したり、ハンマーのフェルトを柔らかくしたり、新たな生命をピアノに注入してくれている気がした。
 たまに曲を弾いて音を確かめていた。流石に上手に弾くものだ。自分でも早く弾きたくて、うずうずした。
 ふと見ると、ピアノの中の上のほうに製造年月日があった。それを見て鳥肌が立った。何と私の誕生日だったのだ。余りにも驚いて言葉が出なかった。何という偶然だろう。
 家の電話番号とピアノを下さった方の誕生日が一致したのに続き、今度はピアノの製造年月日と私の誕生日が一致した。全てができ過ぎていた。やはり私の家に来るべくして来た、選ばれたピアノだったのだ。
 私は世の中に偶然はないと思っている。真に不思議な縁である。 
 その後、集合住宅に引っ越し、近所迷惑になるので、ピアノが弾けなくなった。とても残念でしょうがない。やむを得ず、山梨の実家に移動した。
 今は、実家に帰った時にしか弾くことができない。何ヶ月かに一度、帰省して弾くのが楽しみだ。